エボラに脅えて銃声に怯えて

 

 タンザニアのキゴマからミニバスに乗って、ブルンジの首都『ブジュンブラ』へ。

 

 国境を越えてブルンジに入国したあたりから道が険しくなってきた。カーブだらけの山道をスピード全開で容赦なく進んでいくドライバー。車内には子どもが何人かいて、そのうちのひとり(通路挟んで斜め前の席に座っていた)が、なぜか私の目をまっすぐ見つめながらゲロゲロと通路の床めがけて吐いていた・・・誰も気にしちゃあいない!そしてまた別の子どもが、これまた私の顔をじっと見つめながら母親の膝の上で吐いていた・・・

 

 なんかもう連日の疲れも相まって、こんくらいのことじゃなんにも驚きはしないし、心も動かんくなってしまった。「あー、なんかこちらを見ながら吐いてるな」って、ただ目の前の事実を映像として見ている感じ。そこから何かを感じ取ってやろうとかそういうのがまるでない。だから取り立てて書くこともないし、わざわざこうして書くのもめんどくさい(書くけど)。写真も撮りたくないし。これは完全に心身共に参ってますな〜。時間が経てば復活することはなんとなく分かってる。

 

 どこかで一度ゆっくりしたいけど、「ゆっくり」の過ごし方って全然分からない!結局、カツカツのお金で旅してるからどこにも余裕が生まれないんだろうなって思う。「ゆっくり」したところでお金は減っていく一方だから余計に焦ってしまう。同じだけお金が減っていくなら新しい場所を目指して移動し続けたいって考えが先行してしまって、まあこのザマですよ〜、つくづく不器用だ。

 

 ただ、通路に直接吐く光景を見てビックリすることはなくても、最近モロッコでも感染が確認されたと噂のエボラのことだけは少し気がかりかもしれん。同じアフリカ大陸とはいえ、今現在エボラが流行っているのはギニアやリベリアなどの西アフリカ。私が今いるのはそこから6,000km離れた場所。だからあまり心配することはないんだろうけど、やっぱり目の前で嘔吐されるとちょっと気になる。エボラに感染したら助かる見込みはほぼないに等しいから、つい「もしも数日後に死んでしまったら」を想像してしまう。それでやっぱりまだまだ死に切れんなって思った。死を意識した途端に「あれもこれもやってない」「これをやらずに死ぬのだけは嫌だ」「あの子の声が聞きたい」と急に焦り出す現象なんなんだろう、普段はぽけーっとしているのに。

 

 小さな町で15分くらい小休憩。ドライバーも含め(!?)乗客全員激しく酔っていたからみんなで道路脇の茂みに向かって思う存分出し切った(わろた)。みんなはうんこ座りしながら豪快に吐いてたけど、私はちょっと照れてしまって、ちょこんとしゃがんで、もじもじしながら吐いた(過去一要らん情報)。

 

 再び荒い運転のバスでブジュンブラへと向かう。少しして市内のバスターミナルに到着すると、大きな荷物を背負ってキョロキョロしながら歩く欧米人の姿が見えた。あちらも私の存在に気がついたようで、話しかけられる。「ひとり?」『うん』「旅してるの?」『うん、そっちは?』「俺も」。彼はオランダ人だった。私より少しだけ年上で、同じくアフリカ大陸を縦断しているらしい。お互い久しぶりに"アフリカ人"以外と会ったからか、もうずっとアフリカに対する愚痴が止まらなかった。

 

 「どこに泊まるの?」と聞かれたので、目星を付けていた宿の名前を告げると、「そこはやめといたほうがいいよ、セキュリティ最悪だと思う」という。でも私にはお金がないこと、これまでもこういう宿に泊まってきたことなどを話すと、「日本人はつくづくクレイジーな旅人が多い、みんなお金がない!特に君はまだ19歳で、女の子なのに……めっちゃバカ……」と、至極真っ当なことを言われた。バカは風邪引かないっていうしね、そういえばほとんど風邪引いたことなかった。

 

 ブルンジはフランスの植民地だったから公用語はフランス語。とはいえ少しくらい英語も通じるやろ!と高を括っていたけど、バスのチケット会社に行きたくていろんな人に場所を聞いて回ったとき、「バス」ですら通じなくて途方に暮れた。フランス語なんてBonjourくらいしか知らない。ひたすら「バス」「チケット」「バス」「チケット」を連呼する怪しいアジア人。するとどんどん人が集まってきて、私が「バス」と発音する度にみんなの頭の上にハテナマークが浮かぶ・・・というシュールな光景・・・

 

 それをみかねた一人の男性が、紙とペンをこちらに差し出した。「bus」「ticket」と書くと、みんな一斉に『ビュス!!!』びっくりした、こんな異国の地でいきなり10人くらいからブスって言われたと思った。フランス語でバスはビュス。またひとつ賢くなった。

 

 夜、遠くの方で聞こえる銃声に怯えながら眠りについた。やっぱりこんなところに泊まるのはバカだと思った。