2022 0415 2221

 

 『XXさんとこの息子さんの奥さんがね、「お宅の梅の木の枯葉がうちのベランダまで飛んで来るので、業者さんを呼んでおきました」と言ってね、後から業者さんが来てね、こんなふうに梅の木を切ってしまったんだよ。お母さんが大事に育てていたハーブも一緒にねぇ…』よほどショックだったのか、帰省中に何度も何度も、全く同じ声の調子で私に聞かせてくれた。


 時折何かを思い出したかのように椅子から立ち上がると、ゆっくりと窓の方まで歩いて行き、一呼吸置いてからレースカーテンを一気に開ける。しばらくそこに留まって畑を眺めていた。そして「お庭に蝶々がねぇ、3羽来たよ」とひとこと呟くと、またゆっくりと歩いて元の場所へと戻り、椅子に腰掛けた。帰省中、この一連の動作を何度か繰り返した。蝶の数は2羽だったり3羽だったりした。


 「今年は梅の花が綺麗に咲いたよ」「これだけ花が咲いたら、今年はたくさん梅がなるかもしれないから、今年こそ漬けなきゃねぇ、朱里ちゃんは梅干しが大好きだったからねぇ」と、私が帰省する度に必ず梅の話をしていた祖母は、雑草の生い茂る畑のど真ん中に立つ、葉も花も実も成らない2本の木を見て何を思うんやろか。


 私「この梅の木ってもうダメになっちゃったの?」

 祖母『うーん、どうだろうねぇ。でもね、左の木の奥の枝のところから新しい枝が生えてきててね、そこんところに、ちょびっとだけ葉っぱが生えてるから、きっと"何年も"すれば、また花を咲かせるようになるんじゃないかなあと、私は思ってる』


 人が老いていく様子を目の当たりにするのは嫌だな、いつまでも「死」から目を背けて生きていたいもん

 

***

 

2023 0115 2315 追記

ちょっとずつ新しい枝が生えてきてた。「朱里ちゃんの目鼻がつくまでは、死ねないよ」って言ってたけど、私は梅の木が復活するまでは元気でいてほしい。目指せ100歳!

 

2023 0706 2352 追記

叔母から「今日はおばあさんが何度も『あーちゃん元気かな』と呟いています」というLINEが来たためその場で航空券を取り弾丸帰省。出来れば帰りたくないのが本音だが、祖母が生きているうちはなるべく顔を出したい。それに祖母が居なくなったらいよいよ地元に帰る理由がなくなってしまう。だから、今のうちに、あの懐かしい空気、音、匂いを存分に味わっておかなければ、という思いがある。

『帰る場所』というものに憧れを抱き続けている。身体は帰っているはずなのに心が帰っていない。ここに来ると強烈な負の感情が舞い戻ってくる。涙こそ出てこないが無性に悲しい。しかしこの感覚すら懐かしく思えて、別に嫌いではない。