ギニアビサウの≪Gabu ガブ≫ を後にして、隣国ギニアの≪Labé ラベ≫ へと向かう。今回も定員7名の車に12人が無理やり詰め込まれた。そして「(色んな意味で)危ないから」という理由で、一番後ろの席に案内された。
設計段階で全く想定されなかったであろう数の人間と荷物が乗った車が時速100kmで未舗装の道路を走る・・・実際、重量に耐えきれなくなった前輪が吹っ飛ぶ→そのまま車が一回転→全員死亡、という事故が度々起こるらしく大使館からも注意喚起が出ている。
また、肌の白い人間が乗っていると、検問で時間がかかったり武装集団に狙われやすくなったりすることも。だから「あなたは後ろの席に座りなさい」と言われることが多い。
入り切らなかった荷物は車の上に山積み。まだ出発してもいないのに今にも崩れ落ちそうな荷物たち。ドライバーがヒョイっと車の上に乗り、慣れた手つきで紐と網を駆使して固定していく。
ガブからラベまでは≪Kandika カンディッカ≫という町の近くにある国境を通過するルートで、GoogleMapによると総距離およそ360km。いつも通り時速100kmで飛ばしてくれたら(いや安全運転してほしいけど!マジ怖い、いつか死ぬ気がする)休憩含めて4、5時間で着くんだろうけど、聞くところによるとこのルートはめちゃめちゃ険しい山道らしく、おそらく10時間以上掛かるだろう、と。
サハラ以南の西アフリカでは基本どこでもそうだけど、長距離バスや乗合バン(sept place)のチケットには、出発時刻や到着時刻などの「時間」に関する情報は記載されていない。人が集まり次第出発するし、その日の天候やら道路状況やらによって到着時刻もバラバラ。大抵が昼過ぎになって出発、運が良ければ午前10時くらいに出発できるかな?といった感じ。待ち時間が退屈だからと言って遅めの時間に行くと「XX行き?さっき出発したよ!」と、運悪くその日の便を逃してしまうこともある。だからいつも長時間待つこと前提で、朝一でバスターミナルに向かう。
8時に到着し、チケットを買ってから荷物を預け、人が集まるまでのんびりと、周辺の食堂でご飯を食べたりジュースを飲んだり車の中でぼーっとしたりした。
結局人が集まったのは11時過ぎだった。これから10時間の移動となると、到着する頃にはもう夜だ。外務省の危険マップを見ると、ギニアはあまり治安がよろしくない。同じ車に乗る人たちとは仲良くしておこうと思った。
ドライバーは未舗装の凸凹道路でも容赦なく加速し続ける。何度も何度も天井に頭をぶつけ、その度に私は「いてっ」「うわぁっ」とか一人でぶつぶつ言ってた。皆は慣れてるのか無言。いちいち反応する私を見てニヤニヤしてた。石頭?痛くないのか?そして最も苦痛だったのが、前の席に座っていた女性が30分に1回、窓の外に向かって唾を吐いていたこと。この車、時速100kmで走っています、その唾は風に乗って私のリュックにペタリ・・・
国境を越えてしばらく進むと、急に「車の調子が悪いなあ」と言い出すドライバー。時速10kmのノロノロ運転が始まる。どうやらパンクしたらしい。≪Koundara クンダラ≫という小さな町で車を修理することになった。
どれくらいかかる?と聞くと、1時間くらいかなぁ、と言うので、少しだけクンダラの町を歩いてみた。水やお菓子、夜ご飯用のフルーツを買い足したり、ほかの乗客と一緒にトイレを探し回ったりしただけでぐったりと疲れてしまった。最近ろくなもん食べてないなあ、マンゴーばかり食べて、それで栄養摂れた気になってる。
修理が終わり、再び車に乗り込む。しばらくすると本格的な山道に入った。さすがのドライバーもここでは慎重になる。こんなところでパンクされたら困るし、もう到着時間はどうでもいいや、無事にラベに着けたらそれで満足、という思いが強くなってくる。
日が暮れて辺りが闇に包まれたとき、向こうのほうで稲妻が見えた。ソワソワし出す乗客たち。何も分かっていない私。次第に近づいてくる光と音。するとドライバーが
「携帯の電源を切れ!!!」
と叫んだ。訳もわからず慌てて電源を切る。そして次の瞬間、ものすごい音と共に真横を流れ落ちていく稲妻!こんな至近距離で雷が落ちたのは初めてだった。初めて訪れる国の真っ暗な山道でこんなことが起こるなんて、運が良いのか悪いのか・・・
「わ〜、びっくりしたっ!!!」って笑って平常心を保ってたけど、でもやっぱり心細くて、どうしても【死】を意識してしまって、ああ、今ここで死んだら、誰にも感謝を伝えないまま死ぬことになるなぁ、本当なんのために生きてきたんやろ、とか思いながら、携帯の電源を入れて、繋がることのないLINEを開いた。
ラベに到着したのは23時過ぎだった。タクシードライバーも、この時間だからかほとんどいない。いつも客引きに対してあれだけうんざりしていたのに、これだけ少ないと逆に不安になる。声を掛けてくれたバイクタクシーのお兄さんに「とりあえず泊まれる場所があれば、そこに連れてってほしい」と伝えると、分かった、乗って、と言うので、15kgのバックパックを背負って彼の後ろに乗った。
街灯のない真っ暗な道をひたすら走りながら「この辺にホテルなんてあったかな・・・」とつぶやき始めるお兄さん。あてもないまま私を拾ったらしい。いろんな人に「おい、ここらへんに宿ってあるか?」とあちこち聞いて回っているうちにようやく光る建物が見えてきた。
案内された部屋に入るとすぐに元気なゴキブリが出迎えてくれた。バケツ一杯の水を渡されて、これでシャワーやトイレを済ませるように言われる。そして幾度の停電、動かない扇風機。とりあえずマンゴーを食べてお腹を満たし、バケツの水で身体だけ流して固いベッドの上へダイブ。ゴキブリの存在なんて気にも留めずに深い眠りについた。