田舎の真夜中。窓を開ければ虫の音、閉めれば無音。音のない世界。最近、布団に入ってもなかなか寝付くことができない。眠くならないわけではない、ちゃんと眠い、けど眠れない。暗闇の中で目を閉じると「お前には何もない」という声が聞こえてきて私を不安にさせる。そうかぁ私には何もないんか、確かにここ数年間は単に規模のデカい逃避行を繰り返していただけだったもんな、それにしても何もない状態がこんなにも怖いものだとは知らんかった。住む場所も、ずっと働いてきた大好きな場所も、恋人も、何もかもを一気に失って、心ここに在らず状態が続いた後、「あとは這い上がるだけだ」と、ナニクソ精神でひたすら勉学に励んだにも拘らず、志望大学にも落ちた。「これからまた一年受験勉強することになるんか」と想像するとどうしようもなく怖くなってくる。20代前半最後の年を無駄にしてしまうんじゃないか、とかくだらんことを考えてしまう。
いくつものパラレルワールドを思い描いてはあれこれと後悔してしまう。しかしどれもこれも誰に相談するわけでもなく自分で勝手に進んでしていることだから誰のせいにもできない。だから今日もひとりで不安な夜を乗り越える。「あいつのせいで、」と責任の所在を他所に丸投げ出来たらどんだけ楽やろか。
目を瞑るとどんどん鼓動が早まっていくのが分かる。「人ってこういう風に、<よし今から死のう>、とか意気込んで死ぬんじゃなくて、なんかこう知らん間に、特に意志もなくふらっと、自分でもよく分からんうちに死んでるんかな」とか考え出してしまって、もしかしたら自分はいま限りなく死に近い場所にいるんじゃないかって思えてきて怖くなる。
恐怖で身体が強張る。身体を起こして部屋の明かりをつける。パソコンを開いて適当に動画を見る。カーテンの向こう側が白んでくる。新しい朝が来た、今日も夜を乗り越えた。テレビの音や電子レンジの音、食器を洗う音。朝の生活音が聞こえてくる。涙が溢れてくる。ストレスで喉が締まって、ほとんど息のような声で「ごめんなさい」を連呼しながら布団にくるまって泣く。泣き疲れていつの間にか眠りに着く。昼過ぎに目が覚めて、寝ぼけ眼で参考書を開く。どうなるか分からんけどもう一年やってみる。